生牡蠣 ブームを支える三倍体マガキはSDGsに寄与
水産用種苗の製造・販売、水産・海洋に関連する商材の開発研究・製造受託サービスなどを提供する徳島県海部郡美波町にあるうみの株式会社。食用貝種苗ではマガキ、イワガキ、アカガイ、シカメガキなどの養殖用種苗を提供。中でも三倍体マガキは、夏季でも身痩せしにくく、また通年出荷が実現可能なので、近年の 生牡蠣 (オイスター) ブームで人気を博しています。
うみの株式会社のこの三倍体マガキの事業は、遺伝子汚染による地域固有特性の消失やこれに伴う特定疾病の感染拡大を防ぐことに繋がることから、SDGsで提唱されている目標14「海の豊かさを守ろう」に貢献する取組です。
三倍体マガキ (真牡蠣)
三倍体マガキ (真牡蠣) とは
染色体のセットを基本となる数 (生物によって異なる) の3倍もつマガキ。牡蠣類はヒトと同じく通常二倍体だが、受精卵にストレス処理を施すことで人為的に作出することができる。不稔性を示すため夏でも食べられる牡蠣ができる他、交雑が起きないことから遺伝的多様性の保全にも有効。海外では全生産量の3割が三倍体で賄われているとも言われている。三倍体の産業利用事例としてはバナナや種無しスイカなど。シジミやギンブナ等は野生個体の中に元来三倍体であるものがいるなど、水生生物には非二倍体の生物も多い。
現在、国内の水産業は、海洋環境の変化や資源管理不足による資源量の減少、収益率の低下や各種運営課題による従事者の減少、高齢化などによって、産業としての継続性が危ぶまれております。そのような中、新たな働き方、収益源を生み出す取組みとして、三倍体化したマガキのシングルシード養殖が広がっております。
8月時点の三倍体マガキ (真牡蠣)
三倍体マガキ (真牡蠣) 染色体像
この三倍体マガキのシングルシード養殖は、殻の形が整っており、貝柱が太く、かつ身入りも充実していることが求められる「殻付き生ガキ」の育成に適しており、国内だけでなく海外向けの輸出を促進することにも貢献しております。特に、国際市場においては季節販売ではなく、通年販売を求められるケースが多い為、三倍体であることを指名してくる向きもあります。
また、三倍体マガキは配偶子が少なく、かつ性成熟期が通常の二倍体マガキと比べ大きくずれる為、限りなく子孫を残しにくい、という特性があります。これは、養殖海域に元々いたマガキと交雑個体を残しにくいことを意味し、遺伝子汚染による地域固有特性の消失やこれに伴う特定疾病の感染拡大を防ぐことに繋がることから、SDGs で提唱されている「海の豊かさを守ろう」という目標達成にも貢献します。
以上のような背景を受け、今年うみのでは以下の申請者の方々のお手伝いをさせていただき、無事全ての方の申請が了承されましたのでご紹介いたします。
特性評価の確認申請了承
- 雅がき組合 (京都府) 海域:舞鶴湾東部
- 山口県漁業協同組合 才川支所 (山口県) 海域:周防灘下関市沿岸
- 山口県漁業協同組合 東和町支所 (山口県) 海域:周防大島町真宮島沿岸
- 池田漁業協同組合 (香川県) 海域:小豆島池田湾沿岸
- 鳴門町漁業協同組合 (徳島県) 海域:鳴門市うちの海
- 和田島漁業協同組合 (徳島県) 海域:小松島市和田島町沿岸
- 福岡市漁業協同組合 唐泊支所 (福岡県) 海域:福岡湾西部
- 佐伯市漁業協同組合 名護屋支所 (大分県) 海域:猪串湾および名護屋湾
うみのでは、これまでも徳島県県南沿岸域、三重県的矢湾、千葉県木更津市および富津市沿岸、兵庫県瀬戸内海沿岸域、大分県佐伯湾大入島、宮崎県宮崎市および日南市沿岸において水産庁に対する特性評価の確認申請のお手伝いをさせていただき、いずれも了承を得てまいりました。
その結果、各生産者の出荷高増に貢献するほか、一水産による阿波はじめ牡蠣 (徳島) 、株式会社オイスターファームラフトによる伊勢志摩プレミアムオイスター (的矢) 、新富津漁業協同組合による江戸前オイスター (千葉) 、津田宇水産株式会社や泉水産、矢竹水産による取組み (兵庫) 、株式会社ひとしおのひとしおオイスター (宮崎) といった生産者固有の名称を冠した殻付き生ガキが販売されるに至り、各方面でご好評いただいております。
うみのでは、今後も種苗の供給を中心とした多面的な支援体制を構築し、国内養殖業の進化発展を支えていきたいと考えております。牡蠣好きの皆様におかれましては、ぜひ上記産地の牡蠣にご関心、ご支援を寄せていただき、ご賞味いただいた感想などを生産者の方々にお寄せいただけますと幸いです。
〒779-2307
徳島県海部郡美波町山河内字外ノ牟井1-6
TEL 0884-77-1117 (代) / FAX 0884-77-1119
フリーコール 0120-957-661
E-mail:info@umi-no.jp
海生生物の生産・飼育に適した立地の「 うみの株式会社 」
シカメ牡蠣と真牡蠣の交配種の作出を異質三倍体で実現
下は、うみの株式会社が2019年にアナウンスした研究報告です。
うみの株式会社は、牡蠣類の養殖において SDGs (持続可能な開発目標) の理念に合致する、収益率の改善と生態系を保全した持続可能な養殖業の発展に寄与する可能性があるシカメガキとマガキの異質三倍体の作出に2019年成功しました。
国内で一般に食されている養殖牡蠣は、生産量が最も多く主に冬に食される真牡蠣( Crassostrea gigas )の他、岩牡蠣( C. nippona )やスミノエ牡蠣( C. ariakensis )、さらに味が良いため海外で人気を得たシカメ牡蠣( C. sikamea )などがあります。
真牡蠣は様々な環境に適応できるため多くの地域で養殖されていますが、出荷 (可食) 時期が限られる、という課題があります。また、シカメ牡蠣はクマモトオイスターとも呼ばれ、生産できれば高単価で出荷できることが期待されるものの、国内では養殖法が十分に確立しておらず出荷前に死んでしまう為、あまり普及していないのが実態です。
さらに、カキ養殖に用いる種苗も問題を抱えております。養殖用のマガキ種苗は主に天然で発生した牡蠣類幼生を回収し、種苗として用いることが国内では一般的ですが、その際他の海域への移動が行われるケースがあり、これは当該地域に自生する牡蠣類の遺伝的多様性を奪うことにつながりかねないとも言われております。
マガキ親貝の産卵誘発
マガキの卵の収容
シカメガキとマガキの三倍体交配種 (上) と二倍体交配種 (下)
同じ交配種であっても染色体セット数によって外形が変わる傾向にあることが観察された
そこでうみの株式会社では上記課題を克服した、味が良く、養殖しやすく、通年で出荷でき養殖エリアの生態系に影響を与えにくい品種の開発に取り組んでおり、その一案としてシカメガキとマガキを交配した三倍体種苗(稚貝)を得ることに成功し、さらに新たな知見を得るにいたりました。今後、社会的ニーズを鑑みつつ、この交配種について安定的な生産体制の実現とともに海面での養殖試験に取り組むべく準備を進めまいりたいと考えております。